寂しい寂しい、

恋しい恋しい、



けれどそれでも生きていけるのだから…なんて、なんて、




















星も見えない夜、お城の一角からまだ明かりは消えない。
知らずふっと溜め息が漏れてしまい、そんな自分を苦く笑う。


…シンドリアに身を寄せてからどれくらいの月日が経ったのか。昼間はもっぱら師匠と剣の修行に励み、時にアラジンやモルジアナと和やかなひと時を過ごす。故郷バルバッドでの一件はこれからもずっと自身の中で影を落とすだろうし、先々に待つ案件も多くある。しかしそれでも今が非常に恵まれた時間であると素直に答えられるだけの心身の余裕も出来た。大きく言葉にはしないがシンドリアという国、並びにそこに住まう人々への感謝を心に根付かせている。…特にシンドリア国王シンドバッドへの感謝は大きく、幼少からの憧れも含めて尊敬してやまない対象としてイチ挙がっている。脈絡と続く王族という形ではなく、一代…当代に於いての活躍・成長は目覚ましく、物語にも成りうる輝かしい実績と当人の求心力、カリスマ性が遺憾無く発揮されている。冒険書には脚色が多かれ少なかれ含まれているとは本人の言だがしかし、シンドバッドその人を一目ばかりでも目にすれば疑いの余地無しと殆どの人が瞬時に処理判断を下せることだろう。正に多人数を心酔させる資質・能力に秀でた生まれながらにして選ばれた存在…彼は、紛れもない王なのだ。
そんな相手に懇意にして貰い、王族として扱いが難しい己を含めた一団を食客として招き入れて貰った。更にはそれに留まらず、各々に合わせた指導者までつけて貰うという待遇の良さ。改めてシンドバッド王には恐らく一生頭が上がらないのだろうなと感じた。

…しかし、時折、

本当に時折ふと過る影がそんな自身の思考をふっ、と遮るのだ。銀灰が散る不透明なその人は、彼のシンドバッド王の傍らに静かに佇む激情の人。


(望みなんて無いって分かってるのに、なぁ)


今もあの人は明かりの灯るあの部屋で、シンドバッド王と共にこの国を護る為に動いているのだろう。
嗚呼正に守護の人。


何だか唐突に空虚感に襲われて、軽く苦笑を落としてから歩き出す。自身に宛がわれた部屋へと歩を進めるが、さっさといつもの調子に戻らなければアラジン達に無用の心配をさせてしまう。らしくない焦燥感はいつの日か消えてくれるのか。いつかの日にらしくあれるのだろうか。



一人分の足音と一人分の影が揺れ聞こえる中、ふと下がっていた視線を前に向けると視界の端に銀灰が散った。


「…ジャ、ファル…さん?」

「…こんばんはアリババくん」


嗚呼この人の気配は本当に掴めない。

驚きに見開いた目をゆるりと戻してこんばんはと返す。


「仕事は…まだ終わってないみたいですね」


ジャーファルの持つ書簡に目を留めそう零すと、彼の人はそうなんですと眉を下げた。


「アリババくんはこんな時間にどうかしたんですか?」

「ちょっと夜風に当たりたくて…」


へへ、と笑うとそうですかと笑い返してくれた。どうやら上手く笑えているようだ。


「明日は師匠との修行も無いですし、ちょっとくらい夜更かししても平気かなぁと」


そう思って。
彼の抱えるモノを目にする度にチリッと疼くそれを見ないふりをして口を開く。

(そう、気付かないふりをして)



「…では明日は何の予定も?」

「はい、今のところは」


もしアラジンかモルジアナの予定が空いているなら何か予定を立てるのも良いだろう。もしくは久方ぶりに書でも読むか。ああそういえばシンドバッドさんの冒険書を読み返したいと思っていたのだった。
つらつらとよくも次から次へと思考が回るものだと我ながら呆れてしまう。そうまでして逃れたい何かを自覚しているからこうも苦しいのか恐らくそうだ。…手に負えない。

徐々に浮かべる表情が剥がれ落ちてしまいそうで、なるべく楽しいことを考えようと思考の転換を行うも、結局それは目の前の人物によって意味を為さなくなった。



「実は丁度私も明日暇を貰ったんです。アリババくんさえ良ければ明日一緒に過ごしませんか?」

「、…え?」

「ああ、勿論何か別にやりたいことがあるならそちらを優先して下さい」


…ただ、滅多にこうした機会は無いので一緒に過ごして貰えると嬉しいです。

そんな彼の言葉にまるでぐるりと思考どころか世界が転換されたように感じて、不安定な足下の感覚に小さく視界がブレた。ジャーファルさんはどうやらそんな俺のほんの僅かな動揺を見逃して(そう正しく見逃して、だ)くれたようで、依然として微笑んだままで。やけに乾きを覚える張り付いた粘膜を動かし声をなんとか発する。


「ぁ、…ジャーファルさんさえ良ければ、」

「私から言い出したんですから、良いも悪いもありませんよ」

「…はは、そうですね」

「ええ」


なんだか馬鹿みたいに泣きそうだ、と思った。
固まりかけていた表情は崩れ、驚くほど自然に笑えている自分がいる。そんな俺を見てジャーファルさんは笑みを深め…そしてどこか、彼自身もまた内包された水分が溢れそうな様相を晒していた…。











闇も深まるそんな時、

ひとりとひとりはにんげんだった。












Promise of Feelings

(例え最期が貴方の傍でなくとも)





***


みなと様、この度は50000打企画にご参加下さり誠にありがとうございました!

ジャファアリで「互いに好き合っているのにシンドバッドには敵わない」と、ちょっとしたすれ違いからの甘いお話…との事でしたが、見事におかしくなりました…こんなもので申し訳ないです。すれ違ってもいないし甘くもなくて…も、すみませアッー(土下座)

アリババくんがああいったスタンスなので、ジャーファルさんもジャーファルさんで踏み込めず、どちらもシンドバッドさんの壁が違う形で存在していますとかなんとか此処で説明していてすみませんすみません。


そして消化が遅くて本当に本当に申し訳ないですすみません。苦情はいつでもどうぞ!

それでは本当にありがとうございました!!


(針山うみこ)